コソボの悪口、語らせて下さい!

 別に普段から自分の心象を言語化していない訳ではない。140文字以内で屑屑と累日のルーティーンを綴文をするという行為は実に愉しくまた、文章の才幹もレクシコンもない自分にとってはそれが等身大上の自分を表象する場として最適解であろう。しかし他人の佳什に目を向けると、長文で言語化する行為もまた悪くないように思える。こうして備忘録と名がつけられたこのブログは誕生したわけであるが、如何せん更新頻度はこのとおりである。せっかくなので、普段からあれこれ言ってるコソボの悪口を集約しておこうね。これがこの記事の趣旨です。 

 

はじめに

 この記事は私のツイッターをよく知ってる向けに、普段繰り返し擦ってるコソボの話を体系立てて纏めて記録しておこうというものです。長期滞在した専門家でも研究者でもなく観光者として1泊だけした自分がプリシュティナで起こったことを有りの儘に書いた記事です。そのため、「コソボ」のことが知りたくてここに辿り着いた人にこの記事を読むのはあんまりお勧めしません。(多分そんな人はいないと思いますが。)あくまでこの記事は、極力視点の主観化に徹したうえで自分の感じた〈コソボ〉を皆様にお伝えする記事であるとお考え下さい。

 

コソボってどこやねん

 コソボ中欧セルビアの南端にある自治州です。旧ユーゴスラビア連邦を構成していた州の一つでしたが、セルビアの内戦の結果一方的に独立宣言をしました。現在日本を含む93カ国から承認を請けているようですが、国連加盟国は195あるわけですから、まあ半分近くの国から国じゃないと思われてるわけですね。日本では「国」として認められていないパレスチナは137カ国に承認されているわけですから、正真正銘の「国」であるとは言えないでしょう。少なくとも私は思っていません。

 

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サラエボの包囲とスレブレニツァはやりすぎだと思うけどコソボは国じゃないよね

コソボ日記

 というわけで、コソボであったことを全部お話しましょう。去年の2月約一ヶ月ほどで卒業旅行もどきで東欧をリトアニアビリニュスからセルビアの首都・ベオグラードまで縦断していました。そして査証スタンプラリーの一環としてコソボに寄ることになったわけです。

 

コソボ入国2日前くらい

 20日前くらいから予約していたプリシュティナのホテルからメッセージが届きました。内容は「前から泊まってた客が延泊したいっていうから彼らを泊めることにしちゃった。悪いけど部屋の空きがないからキャンセルしてくんない?」というものでした。この当時はまあそういうこともあるよな~位で「まあいいよ。もう規約だとキャンセル料発生しちゃうんだけど請求しないでね?」みたいな返信をしました。すると「当日までにキャンセルしてくれたら手数料は取らないよ、でもキャンセルしないと全額取るからね。」みたいな威圧的なDMが送られてきました(こっちはもうメッセージが残ってないのでもしかしたら英弱な自分の勘違いかもしれないが)。なんともパッとしないけど他に良いホテルが予約できたのでゴネずそのままに。よくよく考えれば変な話ですよね、先に予約してたのに後から予約してきた人を優先的に泊めてキャンセルしろなんて、それも直前に。この時点でこの地域の異常性に気づくべきでした。

 

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俺英語間違ってるかも

 

コソボ入国日

 コソボの南に位置する北マケドニアスコピエに前泊。バスターミナル10時発のプリシュティナ行のマルシュで一路コソボへ向かいます。コソボでは手持ちのSIMは使えない為、北マケドニア国内でバスターミナルからホテルまでの行き方や観光順路をメモしておきます。そんなことをしてるうちに国境審査も無事に通過。荒廃した住宅や真新しい高速道路を車窓に見ながら2時間半ほどでプリシュティナのバスターミナルに到着します。先程のサーチでバスターミナルと市街地を結ぶ路線バスが存在しないことを掴んでいたので徒歩で向かうことにします。そしてバスターミナルを出た途端、周囲の雰囲気の変化に気付きます。すれ違いざまの鋭い視線、鼻や口を手で覆うジェスチャー。更には「●△※コロナ★◎?~」という明らかにこちら側に向けられたセリフ。これが一回だけなら良いのですが、断続的に続きます。すれ違う人の半数がこのようなアクションを起こしていたと思います。アジア人が一切いないような町でまるで宇宙人を見るかのような好奇な目で見られるのは慣れているのでいいのですが(寧ろ心地よさすら覚える)、まるで病原菌そのものを見るような目でジロジロ見られるのはいい気がしません。ホテルまで20分ほど歩いたでしょうか、心理的には1時間位かかったと思いますが、その時点でヘトヘト。とりあえずホテルについたので荷物を投げ、併設のWifiで情報収集をします。その結果、さっきのバスターミナルまで行きチケットを買い、そのまま市内の見どころを一周するコースをたどることに。この時点で自分はもう外出せずただベッドで横になっていたい一心でしたが今晩の飯も明日のチケットも無い様ではこの国を脱出することもできず、重い腰を上げて仕方なく来た道を戻ります。

 この先は特筆する必要もないでしょう。差別的言動と行動のオンパレードです。ホテル→ビルクリントン銅像→バスターミナル→プリシュティナ中央駅→セルビア正教会の廃墟→中央図書館→NEWBORNモニュメント→ホテルの順に回りました。唯一救われたのは中央図書館にいた大学生が我々に対しフレンドリーに接してくれたことでしょう。どうやら我々を見ただけで中国人ではなく(コロナ=中国人というイメージ像による差別的な意味ではなく、欧米では大抵差別感情の有無に関わらず、我々黄色人種は中国人だと思い接してくるので)日本人と認識していたらしく、色々な話をしてくれました。やはり図書館にいるような人は教養レベルも高いですね。彼以外の市民はほぼお察しなんですけどね。スーパーで適当に飯を買い込みホテルへ入庫。Twitterで文句をぶちまけながらこの日は就寝です。

 

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こんな馬鹿みたいにエナジードリンク飲むからコソボの人はçmenduriになったんか?

コソボ出国日

 一刻も早くこの町を抜け出したい。その一心でチェックアウトをし(と言っても無料の朝食は食べましたが)、バスターミナルへ。一夜経ったからと言って市民のレベルは変わらず。ヘイトスピーチの自由市場を通り抜けるとそこはバスターミナル。地獄からの脱出口です。指定時刻の指定の乗り場からバスに運転手にチケットを見せバスの中に逃げ込もうとします。すると手で制止されパスポートを見せろと。国際便ですからね、提示の必要性もあるでしょう。パスポートを渡します。すると、パスポートを返され「No bus.」とだけ言われます。❓❓チケットとバスの行き先も時間も一致しています。これはティラナに行きますよね?と聞いてもただ首を横に振られNoと。思いっきりバスの顔にティラナって書いてありますよ。じゃあどこにこのバスは居るのか?と聞いてもつっけんどんな返事。もうこの時点で私は運転手が何を意図してその発言をしているか解っていましたから、熱もないし健康だと手持ちの体温計を持ってしてまで乗せろというつもりでした。しかし一向に埒が明かないので自分の信念に反する人種差別的な発言を仕方なくしてしまいます。「俺は日本人だ。コロナの中国人じゃない。」と。この発言の後、運転手は顔をしかめ同乗のもうひとりの運転手の元へ、1分くらい相談をし降りてきたと思えば早く乗れというジェスチャー。我々は勝利しました。この土地を出られなくなったら冗談じゃない、その気持ちからかもはや最後は怒鳴り合いになっていたようです。

 とは言っても次へ向かう国はアルバニアコソボの民族構成は9割強がアルバニア人でありアルバニアコソボは蜜月の関係ですからまた地獄のような苦行が始まるのだろうと意気消沈しながらバスは一路ティラナへ。ただ座ってるだけで何も言われない天国のような時間はあっという間に終わり、バスターミナルでバスを降りました。すると大声でまくしたてる声が。はぁまたそれかと思いなるべく音を拾わないように構えていたらどうも耳に入ってくるのは「Taxi」という音韻。なんだただの客引きかと思い丁寧に断ると「OK.Have enjoy in tirana.」ということばが。差別的言動どころかその商売気のない単純な親切心からのその発言に仰天し、極力視線を合わせないように下を向いていた自分が無意識のうちに目を大きく見開きその顔を見てしまったのを覚えています。その後、別の客引きにも声を掛けられたので(めっちゃ我慢してたので)断った上でトイレは何処か尋ねたところ、嫌な顔ひとつせず丁寧に位置を指差しで教えていただき、その運ちゃんもそれ以上の客引きをせずに他のところへ消えていきました。前日コソボにいたことを抜きにしてもそのホスピタリティの高さは先進国に比肩するどころか超越してるかもしれない、という自分の予想は裏切られることなく、ティラナの町も安心して夜まで散策することができました。

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ティラナだいすき💓♥❤

 

 

悪口

抜きん出たコソボの酷さ

 今と比べたら感染者も死亡者数も段違いですが、段々と中国から他の国へ広がりつつある時期でしたし、こちらも多少の差別は覚悟のうえ、入国拒否まで視野に入れ行動していました。(現に行くはずだった沿ドニエストルはコロナが理由で入”国”拒否されるとの情報を掴んでいたため行けなかった)アジア人差別の一つや二つはどんな国いってもありますからね。この行脚中もスコピエやこの後に行くコトルやサラエボで同じようなことはされました。ただ、何処においても町行く人の大半がこういう行為をしていたわけではなく、それは数えるほどでした。視界に入るいずれかの人がこういう行為をしていたのはコソボだけです。そして、先述の通りコソボと同じ民族の住むアルバニアではそんなことは一切なく高待遇をうけました。僕は単純なのでアルバニア大好きです。そしてこの事実からも民族的な見地からその差別を断じることはできないわけですね。

 

君たち紛争で何を学んだのかしら

 コソボセルビアからの独立のため紛争をしていたのはほとんどの人が知っているでしょう。その紛争はセルビア人によるアルバニア人に対しての人種差別的な扇動を皮切りに両者が主体となった泥沼の民族浄化に繋がったものだと記憶しています、というか教科書の上ではそういう事になっています。それがほんの20年前の話のはずですね。でも蓋を開けてみればこれ、勿論コロナが怖いのはわかりますよ。得体のしれないなにかから自己保身に走るのは当然でしょう。でも私はその得体のしれない何かではなく一人の人間なわけですね。さあ、20年前経験した(とされている)地獄は彼らに何を齎したのでしょう。少なくとも中心部に誇らしげに置いてある「NEWBORN(新生児)」のモニュメントが私の目には空虚に写りました。

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REDZONEより最悪な7文字

 

おわり

これからも自分はコソボのことを嫌い続けますし色々と悪口を幾度と言うことでしょう。しかし何度も言いますがこれは私が観光客として見たコソボでありコソボの全てではありません。立場を変えれば別のコソボが見えてくるかもしれませんし、気になる人は行ってみるといいかもしれませんね。自分はオススメはしませんし、二度と行きたくないですが。まあでもこの経験がなかったほうが良かったとは言いきりません。その時は「早く帰りたい」という一心でしたが今思えばそれも贅沢な悩みですよね。今は海外に行きたくも行けないのですから。早くコロナが収束して気軽に高飛びできる時代が戻ってくるときを信じで私は生きています。そして最後にコソボで私達に親切にしてくださった数え切れるほどのすべての皆様に御礼を言いたいと思います。急に前日に予約を入れたアジア人を普通に泊めてくださったTホテルオーナーの方、朝食を普通につくってくださったホテルの料理人の方、バスのチケットを普通に売ってくださったチケット売り場の方、町中やバスの中で私達に無関心であった市民の皆様、図書館で話しかけてくださった学生さん、スーパーで普通に会計をしてくださり、更には袋詰まで手伝ってくれたレジの方、あまりの怒りに当日ホテルで送りつけたDMに対してご丁寧に返信してくださったコソボ日本大使館Twitter担当の方、ありがとうございました。あなた達の御恩は一生忘れません。

 

 

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プリシュティナ市民のちくちくことばにビル・クリントンも泣いています

 

 

おまけ

 アルバニアや悪名高きコソボで使われるアルバニア語は大変面白い言語です。英語、ドイツ語、フランス語、サンスクリット等の世界の派遣を握る印欧語族の中でもかなり祖語に近い状態が保存された古い言語で、なかなか複雑な文法体系が魅力です。中動態が残っていたり、時制が8個あったり、複数形の変化が20種類あったり、定冠詞が後置と前置の両方あったり、バルカン的な代名詞の二重使用もあったり…ともかく複雑ですがでも面白いです。言語がそもそも大好きな方にも英語が苦手だけど何か他の言語を習得したい!という方にもおすすめです。アルバニアで使えるので。日本語の参考書は『アルバニア語入門(大学書林)』というのがおすすめですが、中古市場にすら基本的に出回ってません。3日前に1冊だけAmazonマーケットプレイスに出てましたが俺が喜々として買ってしまいました。そしてなぜか国会図書館で本を検索しても出てきません。泰流社という出版社からもアルバニア語を扱った本が出ていますがこの出版社の本はお勧めしません。『アルバニア語1500語(大学書林)』はまだ町中の本屋でも見かけます、基本は単語集ですが軽い文法便覧があるのでなかなか理解するのは大変かもしれませんが十分複雑さは体感できると思います。英語に抵抗のない人は『Beginner's Albanian (Hippocrene Beginner's Series)』がおすすめです。お手頃価格でなかなかの充実度だと思います。後は定番のColloquialシリーズの『Colloquial Albanian』もおすすめです。高いですが信頼できる本だと思います。最後は妾の拙いアルバニア語でお別れしましょう。

Prishtina është me siguri më i ulëti ndër qytetet e Serbia. Mirupafshim. Faleminderit.